偕成社から2021年7月に刊行された絵本、『ぼくは川のように話す』(ジョーダン・スコット文、シドニー・スミス絵)について翻訳家の原田勝さんにうかがいます。
日本YA作家クラブ会員インタビュー第6弾は、会員さんへのアンケートとメールのやりとりをもとに、世話人の梨屋アリエが報告します。最新のYA作品や、みんなが知っているYA作品、YA層に読んで欲しい作品、その他、会員さんの情報としてYA作品以外の本の情報も、発信していきます。掲載順は、会員さんのお仕事のご都合に合わせて。更新は不定期になります。どうぞよろしくお願いします~。
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原田勝さんにインタビュー!!
原田勝さんは、ロバート・ウェストールの『弟の戦争』やベン・マイケルセンの『スピリットベアにふれた島』のほか、ジョン・ボイン、ピーター・シス、ガース・ニクスの作品などなど、たくさんのYA作品や児童文学の翻訳でおなじみの翻訳家さんです。
『ぼくは川のように話す』について教えてください。
(原田さん) 吃音のあるカナダの詩人ジョーダン・スコットが、自身の幼いころの体験を詩的につづった文章に、今、カナダでもっとも注目されている絵本画家シドニー・スミスが、光と影を巧みに用いた独特の絵をつけています。
物語の主人公は吃音のある少年。ある日、教室でうまく話せなかった少年を、放課後、父親が川へつれていき、「おまえの話し方は、この川のようだ」と言ってくれます。「あわだって、なみをうち、うずをまいて、くだけている。川だってどもっているのだ」と。この言葉に少年は救われ、自信をとりもどします。
吃音に焦点をあてた作品ですが、思うように言葉があやつれなかった経験はだれにでもありますし、話が上手な人も、本当の思いを表現できているとは限りません。とくに十代のころは、話すことの不自由さやむずかしさを、だれもが身をもって感じるのではないでしょうか。この絵本は、心からの言葉とすばらしい絵によって、読者一人ひとりが抱えている胸のつかえを溶かしてくれると思います。
(梨屋)当事者の方の文章なのですね。吃音の少年の登場人物と言えば、原田さんは岩波書店のSTAMP BOOKで、ヴィンス・ヴォーター著『ペーパーボーイ』『コピーボーイ』も訳されていましたね。
今回の作品は絵本ですが、おおよその対象年齢はどのくらいですか?
(原田さん) 小学校低学年から大人までです。原書の表紙を見た時、どうしてもこの絵本が欲しい、できれば訳したいと思いました。
(梨屋)日本版の本も、一瞬、写真かな、と思ってしまうほど光の表現が美しく、惹きつけられました。
(原田さん)翻訳にあたっては、原文のリズミカルなタッチを訳文に残すよう心がけました。担当編集者さんとの読み合わせが効果的だったと思います。そしてタイトル文字を荒井良二さんが描いてくださったことが、日本語版をいっそうすばらしいものにしてくれました。
(梨屋)表紙の男の子が書いた字のように錯覚してました。言われてみれば、荒井良二さんの文字です! わ~、荒井良二作品のコレクターの方、この本も忘れずに収集してくださいませ!
どの川? なぜ川?
(梨屋) さて、ひとつ気になっていることがあります。この川って、どこのどんな川なんだろう。なかなかワイルドな川のようです。
わたしの川のイメージは、関東平野を流れる川なので、そのせいか「どもっている川」や「川のように話す」という言葉がピンとこなかったのです。わたしの兄も吃音があるので、川かなあ……? と、なんか腹オチしないのですが……。
(原田さん)そういう感想はよく目にするのですが、むしろ私には意外な感想です。山が近い日本では、少し車を走らせれば、川は急な渓谷を岩にあたりながら下り、ときには瀞で淀み、ときには滝となって落ちているのが見られます。その後、曲がりくねりながらしだいに広がる川幅とともに、ようやくゆったりと流れるのです。大きな川も遡れば必ず、そんな「あちこちでつかえながら流れる川」ですし、そういう川を見て育つ子どもたちもたくさんいるのではないでしょうか。
(梨屋)なるほど。川の始まりからおわりまでのダイナミックな過程を想像すればいいのですね。もしかしたら、立て板に水という言葉があるせいで、その先入観が邪魔していたのかもしれません。
絵本を見ると様々な姿の川面が美しく描かれているので、作者の深い思いは絵を通しても伝わってきます。ページを展開してパノラマビューになる場面は、絵の効果もあって本当に感動的でした。
この絵本の少年は、お父さんの言葉に救われました。家族の支えや理解が、子どもにとってはとても大切なんだと思います。
出版社のサイト
偕成社のウェブマガジン「本のプロのイチオシ 書評コーナー」「何度も読み返して味わいたくなる美しい絵本」(みやこしあきこ・評)
執筆以外の最近の活動や関心ごとを一言おねがいします
ここのところ絵本の翻訳が続き、言葉ひとつひとつの大切さを改めて感じています。おかげで、小説の翻訳スピードが落ちてきたかもしれません。
原田勝さんProfile
神奈川県出身、埼玉県在住。
翻訳家。
ブログ「翻訳者の部屋から」 https://haradamasaru.hatenablog.com
(梨屋)最後にもうひとつ質問です。 原田さんは会社員を経験をしたあとで翻訳家になられたそうですが、どんなきっかけがあったのでしょうか。翻訳家になる夢を持ちながら一歩を踏みだせないかたも多いように思うので、アドバイスがあれば……。
(原田さん)大学卒業後、愛媛に赴任してのんびり暮らしていたのですが、東京に転勤になると、行き帰りの満員電車が苦痛でたまらず、まずは会社をやめました。で、学習塾の講師になったのですが、なにか目標が欲しくて、子どものころに翻訳された外国文学が好きだったことを思い出し、翻訳学校に通い始めたのがきっかけです。最初に受けた講座が、金原瑞人先生の講座だったことが幸運でした。翻訳、面白いです! (あまり参考になりませんね。)
(梨屋)子どものころに好きだったものが、今のお仕事につながっているのですね。
そのほかの近刊(翻訳)
2021年9月『バーナバスの だいだっそう』ファン・ブラザーズ著(学研プラス)
4月『春のウサギ』ケヴィン・ヘンクス著(小学館)
2月『マーティン・ルーサー・キング・ジュニア (小さなひとりの大きなゆめ)』マリア・イサベル・サンチェス・ベガラ著 (ほるぷ出版)
原田勝さん、ご協力ありがとうございました!
原田さんには、「日本YA作家クラブ ニューズレター 創刊号」の「作家・翻訳家のお気に入り調査隊」コーナーで、愛車のオートバイをご紹介いただきました。
日本YA作家クラブでは年に二回、図書館や学校図書館、読書推進活動をしている団体様向けに、ニューズレターを発行しています。ニューズレターについての情報は、公式サイトを御覧ください。下の図からリンクしています。
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