鈴木出版から2020年7月に刊行された『せんそうがやってきた日』(ニコラ・デイビス/作、レベッカ・コッブ/絵)について翻訳家の長友恵子さんにうかがいます。
日本YA作家クラブ会員インタビュー第6弾は、会員さんへのアンケートとメールのやりとりをもとに、世話人の梨屋アリエが報告します。最新のYA作品や、みんなが知っているYA作品、YA層に読んで欲しい作品、その他、会員さんの情報としてYA作品以外の本の情報も、発信していきます。掲載順は、会員さんのお仕事のご都合に合わせて。更新は不定期になります。どうぞよろしくお願いします~。
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長友恵子さんにインタビュー!!
長友恵子さんは絵本からYAまで幅広く作品を翻訳されています。今回は新刊ではなく、昨年刊行されてから話題となっている絵本についてお答えいただきました。
絵本『せんそうがやってきた日』の翻訳の動機、きっかけを教えてください
(長友さん)絵本作家のレベッカ・コッブさんの絵本を訳したことがあって、それ以来彼女の仕事をずっと追っています。動物学者でノンフィクションの児童書がお得意な二コラ・デイビスさんが文を書いた『The Day War Came』がコッブさんの最新作と知り、コッブさんに連絡したところ、まだ版権が空いているとわかりました。
それから持ち込みを始め、この本のテーマの「(子どもの)難民」が、絵本を手に取る年頃の子どもには理解が難しいからという理由で7社に断られ、8社目で私の訳で出していただけることになりました。
(梨屋)8社目ですか! 持ち込み続けた理由はありますか?
(長友さん)この絵本には意味があると思いました。難民に対する理解をわかりやすい絵本という形で示しています。ですので、編集者さん達に何度断られても、なんとか日本の読者に紹介したいと思い、持ち込みを続けました。
(梨屋)翻訳の場合、出版が決まるまで何社も持ち込むことが一般的なのですか?
(長友さん)私のまわりにいる翻訳者達は、皆、依頼だけに頼らず持ち込みをしています。(児童書の)英語の翻訳者は競争が苛烈なので、ただじっとしているだけでは仕事はいただけないという事情があるのです。
タイトルや装丁について
(長友さん)タイトルは、結局『せんそうがやってきた日』という原題を素直に日本語にしたタイトルとなりました。対象年齢は幼稚園児から上ですが、大人の読者に対しても訴求力があると思います。
再校あたりだったか、その訳文のフォントをイラストの雰囲気に合ったゴシック体系にするか、話の内容に合った明朝体系にするかで、編集者から意見を求められました。結局、明朝体系にしたいと言いましたが、いまだに迷うところです。
(梨屋)絵本の字体についても、長友さんの意見が取り入れられているのですね。
絵本を開いたら、まず、子どものところに戦争が「やってくる」様子が、日常が破壊されている様子が胸に迫ってきました……。
(長友さん)具体的なストーリーは、戦争で家族を失い難民になった女の子が、たったひとりで逃げる話です。たどり着いた地で学校へ行きたくても、座る椅子がないと断られ、一旦は深い失望を味わいます。ところが、その教室にいた子どもが椅子を持ってきてくれて、その女の子が学校に行けるようになるというものです。
(梨屋)元の生活ではありませんが、落ち着く場所ができるということは、この子の希望となりますね。
(長友さん)話に出てくる「椅子」は、子どもにとっての「学校」、「教育」の象徴なのではないかと気がつき、装幀してくださった鳥井和昌さんにお願いして日本語版の背表紙に「椅子」をいれてもらいました。
書店の棚に並んだ時に、どういう風に目に入るかと想像したときに、この象徴の「椅子」のイラストを背表紙に入れたらどうかと思い至ったのです。
(長友さん)新人だったときには、編集者から事前に意見や考えを聞かれることなど皆無でしたので、この絵本の翻訳はうれしい仕事でした。また、ジャーナリストの安田奈津紀さんがご自分のtwitterアカウントで紹介してくださったことも、うれしいことでした。
(梨屋)中高生が学校で人権や子どもの権利条約について学ぶときにも、一緒に読んでほしい絵本ですね。
鈴木出版のサイト
作者の二コラ・デイビスさんの動画
執筆以外の最近の活動や関心ごとを一言おねがいします
(長友さん)紙芝居が大好きです。ただいま、2ヶ月に1度くらいの頻度で、ブックハウスカフェ、絵と言葉のライブラリー「ミッカ」、横浜富岡並木地区センターで仲間と一緒に演じています。紙芝居文化の会の運営委員をしています。
(梨屋)紙芝居の魅力に気づいたのはいつごろですか? きっかけはありますか?
(長友さん)図書館で紙芝居の講座があり、講師に誘われて、2008年の紙芝居文化の会の紙芝居講座に参加したのが、私の紙芝居歴の始まりです。絵本と違い、一度読みあげたら読み返すことがない紙芝居の文章は、簡潔かつリズミカルで、自分の日本語をみがくのに役立つと思い、続けています。紙芝居を演じている時に感じる子どもの真剣なまなざしに、これからも真摯に対していきたいです。
(長友さん)こちらはお初釜で撮った写真です。
(梨屋)お着物姿、すてきですね~!!茶道を始めたきっかけはありますか?
(長友さん)母が着物を着る人だったので、自然と私も着物が大好きでした。でも今は普段の生活で着物を着る人はほとんどいないですよね。どんな場面だったら浮かずに着物を着られるかしらと考えて、茶道に進みました。お稽古を始めたら、生まれて初めてというくらいおもしろく感じて、のめり込みました。
30年間、裏千家で習っていましたが、3年ほど前に、仕事に専念するため、やめました。
長友恵子さんProfile
北海道生まれ、湘南育ち。 現在は埼玉県在住。
翻訳家 そして、エッセイスト(になりたい人)
Twitter : @nagatomo_keiko nyanko
そのほかの近刊(翻訳)
2月『ヤーガの走る家』ソフィー・アンダーソン/著 (小学館) 7月『ビアトリクス・ポターの物語 -キノコの研究からピーターラビットの世界へ』リンゼイ・H・メトカーフ /著 ジュンイ・ウー/イラスト (西村書店)
長友恵子さん、ご協力ありがとうございました!
日本YA作家クラブでは年に二回、図書館や学校図書館、読書推進活動をしている団体様向けに、ニューズレターを発行しています。ニューズレターについての情報は、公式サイトを御覧ください。下の図からリンクしています。
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