ポプラ社から2022年3月に刊行された児童文学、『あの子のことは、なにも知らない』について作者の栗沢まりさんにうかがいます。
日本YA作家クラブ 会員インタビュー 第6弾は、会員さんへのアンケートとメールのやりとりをもとに、世話人の梨屋アリエが報告します。最新のYA作品や、みんなが知っているYA作品、YA層に読んで欲しい作品、その他、会員さんの情報としてYA作品以外の本の情報も、発信していきます。掲載順は、会員さんのお仕事のご都合に合わせて、決めていきます。更新は不定期になります。どうぞよろしくお願いします~。
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栗沢まりさんにインタビュー
栗沢まりさんは、『15歳、ぬけがら』で第57回講談社児童文学新人賞佳作受賞。今回の本は単著としては二作目の作品となります。中学校の国語教諭や塾講師の経験もあるそうです。
新作『あの子のことは、なにも知らない』の内容を、一言で言うと?
(栗沢さん)主人公は中学3年生。卒業祝賀会で使う写真をなかなか持ってこないクラスメイトの存在をきっかけに、物の見方が変わっていく過程を描いた物語、と言えばいいかな。
(梨屋)とすると、対象年齢は……?
(栗沢さん)中学生以上ですかね。ぜひ大人にも読んでいただけたら、と思っています。
執筆のきっかけは?
(栗沢さん)この物語を書いたのは、もう4年くらい前になります。当時はコロナもなくて、二分の一成人式や卒業を祝う会とか、ありこちでやっていました。子どもの成長をスライドで流すとか、親子で参加するセレモニーです。私も自分の子どもが卒業するときに参加したんですけど。その時は、小さい頃の写真を見て、大きくなったなぁなんて思って単純に喜んでいたんです。でも、そのあと、デビュー作で子どもの貧困をテーマにした物語を描いたことで、見方が変わりました。ほんとに大いに反省しましたね。世の中には家に写真がない子もいるかもしれないし、親に虐待されている子もいるかもしれない。自分は今まで知らず知らずのうちに誰かを傷付けていたんじゃないかな、って。それで、ちゃんと考えようと思って、中学3年生の視点を借りて、考えてみることにしたのです。自分が疑わずにしてきたことが、誰かを傷つけているかもしれないとしたら、15歳を生きている子は、それに気づく瞬間何を感じるだろう。気づいたらどうするのか。どうしたいと思うのか。それを知りたいと思いました。
(梨屋)デビュー作『15歳、ぬけがら』もきっかけの一つになっていたのですね。他には、どんなことを気になさっていますか?
(栗沢さん) 執筆にあたって、いつも意識するのは、大学生の時に読んだ灰谷健次郎さんの『ひとりぼっちの動物園』(あかね書房)で読んだ詩です。
「あなたの知らないところに人生がある/あなたの人生が/かけがえのないように/あなたの知らない人生も/また かけがえがない/人を愛するということは/知らない人生を知るということだ」
私が灰谷さんの本に気づかされたように、『あの子のことは、なにも知らない』が、少しでも、誰かほかのひとの人生に目を向けるきっかけになればいいな、と思っています。
(梨屋)5年ぶりの新刊ですね。一作目が強烈な印象を残した作品なので、いろいろ苦労されたのでしょうか?
(栗沢さん) はい。そうですね(笑)これとは違うテーマでいくつか描いたのですが、うまくいかなくて。この原稿は、ポプラ社さんで「本にしよう」と言っていただけるまでに2社に断られています。しかも、卒業式が絡むことなので、出版の順番待ちという感じで、すぐには本にはなりませんでした。そのうちにコロナで人が集まる行事はなくなり、この物語の中心である卒業祝賀会もなくなりって、出版が中止になるのではないかと思いましたが、ちゃんと本になってよかったです。
(梨屋)そうだったのですね。新型コロナウイルスが蔓延して、本当にいろいろなことが変わってしまいましたね。
ところで、一作目も今回の本も主人公は15歳ですね。 「中学3年生の視点を借りて、考えてみる」と先ほどおっしゃいましたが、栗沢さん自身の中学3年生の記憶の視点なのでしょうか? それとも中学校や塾の先生をされていたご経験や子育ての経験から、中学3年生なら身近で、行動や思考パターンがわかるという感じなのでしょうか。栗沢さんにとって「15歳」とはどんな年齢で、どこに魅力を感じていますか?
(栗沢さん)15歳は、多感な年頃ですよね。大人なのか子どもなのか、自分自身もわからないし、周りもちょっと戸惑ってしまう感じで。逆に言うと、自分が自分を大人だと思えば大人になれるし、外からの刺激次第でどうにでも変わることができる、というある意味危うさもある。その不安定さが魅力です。
自分の中3の頃って言ったら、本当に自分中心。半径三メートル以内のことしか目に入らない感じでした(笑)。自分の子どもやその周りにいる子とか、それに、今まで出会ってきた15歳の子を見ていると、不思議とそのころの自分を思い出して落ち込みます。今の子の方が相当大人ですね。ですので、自分の15歳の頃の記憶と彼らの言動などから、こんな感じかなぁと推測しながら書いている感じかな。彼らの行動や思考が「わかる」と言うより「どう? こんな感じ?」と主人公たちに問いかけながら探っていく、っていう感じですかね。すみません、わかりにくくて(笑)
装丁について
(栗沢さん) 画家の中田いくみさんに素敵な絵を描いていただきました。表紙の男女は主人公の二人、裏表紙は「あの子」です。装丁のデザイナーさんと編集さんが細かい色合いまで気をつけてくださり、ものすごくいい本にしてくださったと感謝しています。章によって主人公が入れ替わる構成で、そのうえ、「あの子」の独白のページもあるのですが、見事にわかりやすく装丁してくださいました。とっても気に入っています。
ポプラ社の紹介サイト
https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/8001061.html
栗沢まりさんProfile
神奈川県出身 北海道在住。
児童文学作家。
執筆以外の最近の活動や関心ごとを一言おねがいします。
(栗沢さん)最近俳句に興味を持ちはじめました。
小説と違って、わずか17音で世界を表現できる魅力にはまっています。
読めない漢字と知らない言葉の多さに愕然とし、聞いたこともない伝統や習慣や行事にびっくりする日々。
日本人なのに日本のことを何も知らない自分に作家などできるはずがないと、思ってしまいます(笑)
日々、いろいろな言葉に出会えて刺激的ですよ。
歳時記が愛読書になりそうです。
(梨屋)俳句、いいですね! 俳句が好きな児童文学作家さんは多いようなので、いつか句会をしてみたいですね。
その他の近刊
2017年6月『15歳、ぬけがら』 (講談社)
12月『YA! アンソロジー ひとりぼっちの教室』 (YA! ENTERTAINMENT 講談社)
栗沢まりさん ご協力ありがとうございました。
日本YA作家クラブでは年に二回、図書館や学校図書館、読書推進活動をしている団体様向けに、ニューズレターを発行しています。
ニューズレターについての情報は、公式サイトを御覧ください。下の図からリンクしています。
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