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インタビュー 作家・詩人の寮美千子さん 在日二世「なっちゃん」のノンフィクション『なっちゃんの花園』は『はるちゃんの花園』になる寸前だった!?

西日本出版社から2021年9月に刊行された『なっちゃんの花園』について作者の寮美千子さんにうかがいます。


書影

 
日本YA作家クラブ 会員インタビュー 第6弾は、会員さんへのアンケートとメールのやりとりをもとに、世話人の梨屋アリエが報告します。最新のYA作品や、みんなが知っているYA作品、YA層に読んで欲しい作品、その他、会員さんの情報としてYA作品以外の本の情報も、発信していきます。掲載順は、会員さんのお仕事のご都合に合わせて、決めていきます。更新は不定期になります。どうぞよろしくお願いします~。
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寮美千子さんにインタビュー

  

寮美千子さんといえば、『空が青いから白をえらんだのです―奈良少年刑務所詩集』を思い浮かべるかたが多いかもしれません。翻訳された『父は空 母は大地―インディアンからの手紙』の世界観も素敵ですし、小林敏也先生の装画の『ラジオスターレストラン』などのファンタジー作品を懐かしく思うかたもいらっしゃるでしょう。繊細な世界とパワフルな情熱と実行力を併せ持った詩人・作家さんです!


『なっちゃんの花園』を一言でいうと、どんな本ですか?


(寮さん)在日二世のおばあさんの苦難と笑いの実話物語です。


(梨屋)この本のおおよその対象年齢はどのくらいですか。


(寮さん)小学校高学年以上です。


執筆のきっかけは?


(寮さん)コロナで暇になって近所を散歩していたら、川岸に花の咲き乱れるすてきなプロムナードが。コンクリ舗装がしてあるけれど、なぜかガタガタ。後でわかったのですが、その川岸に住むおばあさんが、一人で舗装をし、樹木や花を植えて作った花園でした。外来植物の除草を手伝うと、おばあさんはわたしを見ていきなり「うち、在日二世なん」と告白。びっくりしていると、堰を切ったように、自らの怒濤の人生を打ち明けてくれました。差別と貧乏で小学校にも行けず、字を覚えたのは54歳で夜間中学に入ってから。それまでも、在日コリアンゆえに、大変な苦労をなさってきたのです。そんな物語が、すぐそばにあったとは! これはみんなが知らなければいけない。ヘイトスピーチが横行するいまの日本、差別が一人の人の人生をどんな苦境に追い込むのか、一人でも多くの人にそれを知ってほしいと思い、書きました。


(梨屋)始まりは偶然の出会いなのですね。親切な寮さんの存在とコロナ禍と外来植物の除草という行為が、おばあさんの長年の思いをあふれさせたのですね。


(寮さん)奈良少年刑務所で少年たちと触れあってきたために、自然と「話しやすい雰囲気」が身についていたのかもしれません。でも、一番書きたかったのは「なっちゃん」のバイタリティ。どんな苦難も乗り越えていくたくましさとユーモア。コロナでしゅんとしている人たちにも、なっちゃんが、勇気と元気をくれると思います。楽しく読める本です。


編集作業中の印象的な出来事について


(寮さん)なっちゃんが「うちのこと、先生みたいな人が小説に書いてくれたらええんやけど」と自分から言いだしたので、張りきって書かせてもらいましたが、いよいよ本になるという段になると「やっぱり嫌や」と言いだして、わたしはまっ青。「うちはもう日本に帰化して、在日だったことを知る人は近くにおらん。本が出たら、バレてまう。『あの人ほんまは朝鮮人やで』って後ろ指さされ、いじめられるに決まっとる」となっちゃん。「それなら『はるちゃんの花園』に変えたら、許してくれる?」と聞くと、しぶしぶOKしてくれました。そこで、「なっちゃん」をすべて「はるちゃん」に差し替え。

 ところがところが! 印刷直前になって「やっぱりなっちゃんにして!」と。古い友人にゲラを見せたら「なっちゃん、苦労したんやな。じいんときたわ。え? 『はるちゃんの花園』にしたんか。そりゃあかん。絶対あかん。『なっちゃんの花園』でなけりゃ。これはなっちゃんの物語なんやから」と言われたそうです。そこでまた急遽差し替えとなりました。


(梨屋)お友達の一言で、夏から春になるのを食い止めたのですね。


(寮さん)はい。もちろん、ゲラはなっちゃんに見てもらい、なっちゃんの前で、すべてわたしが朗読しました。その上で、出版の了解を得る書類を作り、サインもしてもらいました。なっちゃん関連の登場人物はもちろん仮名。そもそも「なっちゃん」自体も愛称で本名は全然違うのです。初版の印税も半分はなっちゃんに。モデルのある作品は、いろいろとむずかしい点があります。モデルや周囲の人がご存命中であれば、なおさらです。傷つけることのないよう、細心の注意を払いたいと思います。


(梨屋)いまも交流は続いているのですか?


(寮さん)なっちゃんのことを「ネタ」として消費するつもりは最初から毛頭なかったので、今も親しくおつきあいしています。人生の大先輩で、大切な友人になりました。

 結局、本は『なっちゃんの花園』というタイトルで出版。誰にも秘密にすると言っていたなっちゃんでしたが、やっぱりうれしくて話してしまいました。すると、心ない友だちから「なっちゃんは嘘つきや。朝鮮人やったんを隠してたんやな」となじられたそうです。それで、なっちゃん、大泣き。お母さんの死以来、初めて泣いたと言っていました。本当に申し訳なく、心が痛みました。もし、その人がほんとうに本を読んでいたら、差別がどんなに愚かなことか、どんなに人の心を傷つけるかが、恥ずかしいことか、わかるはず。きっと、その人は、本を読まずに、本の帯の「うち、在日二世なん」という文字だけを見て、そう言ったのでしょう。

 ところが、それから数日したら、なっちゃんが弾んだ声で電話をくれました。「古い友だちが電話をくれて、20年ぶりに訪ねてきてくれたんよ。『新聞の紹介記事読んで、すぐに本を買って読んでみたら、やっぱりわたしの知っているなっちゃんやったわ』って」。ほっとしました。「昔の友だちに会えて、うれしかったわあ。本にして、悪いこともあるけど、ええこともあるなぁ。結局、いつだって大自然が守ってくれてるんやね」となっちゃん。大自然云々、というのは、なっちゃんの口癖です。本にも、何度も出てきます。お楽しみに。

寮さんとなっちゃんの写真
「蛇やら蛙やらしかいなかった川の岸を、うちが何十年も掛けてきれいにしたんや。この花も、実から育てたんやで」となっちゃん(右) 2021-3

 出版を機に、なっちゃんは、いままで出会ったことのなかった人々とも出会いました。子どもの頃、朝鮮人をバカにしてはやし立てたという80代のおじいさんが、本を読んで反省し、なっちゃんに直接会って、謝ってくれたこともありました。家庭菜園のサトイモを使って自分で作ったコロッケまで、なっちゃんのために持ってきてくれたのです。82歳にして、なっちゃんは新しい世界に足を踏み入れています。『なっちゃんの花園』は、新たな世界への扉でした。明るい光に満ちた、差別のない世界をもたらしてくれることを願っています。


(梨屋)本をきっかけに、本当の友人がたくさん増えたようで、良かったですね。本の内容もですが、なっちゃんがとても魅力的なかただからですね。


(寮さん)はい。なっちゃんパワーに、こちらがたじたじです。


装丁について


(寮さん)装丁デザインは、LAST DESIGNの磯口友次さん。コマーシャル分野のデザイナーとして大活躍なさっていますが、本の装丁はこれが初めてとのこと。表紙の明るい花の絵も、ご本人が描いてくださいました。なっちゃんにぴったりの、明るい花の絵です。

 カバーを外すと、表紙の表にはお面が、裏にはたくさんの蝶々が印刷されています。お面も蝶々も、本文中に出てくるもの。両方ともなっちゃんの手作りで、わたしの希望で入れてもらいました。お話のどこに出てくるか、探してみてくださいね。


西日本出版社サイト

教文館書店ナルニア国 紹介文


著者


寮美千子さんProfile


東京生まれ、千葉育ち。2006年から奈良市在住。

作家・詩人

公式ホームページ  https://ryomichico.net/

フェイスブック  https://www.facebook.com/ryomichico

ツイッター    https://twitter.com/ryomichico/





執筆以外の最近の活動や関心ごとを一言おねがいします。


(寮さん)『空が青いから白をえらんだのです 奈良少年刑務所詩集』 にも書いた奈良少年刑務所で行なっていた絵本と詩の教室。刑務所は廃庁になりましたが、知的障害者施設、児童自立支援施設などで、「わかちあう詩の会」として、同じ教室を続けています。この方式が広まって、みなさんのお役に立てればと願っています。教室の開き方のノウハウは『世界はもっと美しくなる 奈良少年刑務所詩集』に詳しくあるので、ご自分でぜひやってみてください。だれでもできます!

 友人とともに、奈良市窪之庄にある古民家「水輪書屋」の再生「みなわプロジェクト」を手がけています。みんなの田舎、みんなの集まれる文化拠点になればと夢を広げています。庭を整備しながら、焼芋もしています! ご参加を! 詳しくはこちら。https://www.facebook.com/minawa.project



その他の近刊

2019年6月『奈良監獄物語: 若かった明治日本が夢みたもの』 (小学館クリエイティブ) 3月 共著『平塚らいてう/萱野茂:女性・先住民の権利をもとめた人びと (非暴力の人物伝) 』(大月書店)

1月『おおかみのこがはしってきて』(ロクリン社)



寮美千子さん ご協力ありがとうございました。



レター

日本YA作家クラブでは年に二回、図書館や学校図書館、読書推進活動をしている団体様向けに、ニューズレターを発行しています。




ニューズレターについての情報は、公式サイトを御覧ください。下の図からリンクしています。



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