双葉社から2008 年に単行本、2011年に文庫版が刊行された小説、『愛とカルシウム』について、作者の木村航さんにうかがいます。
日本YA作家クラブ 会員インタビュー 第6弾は、会員さんへのアンケートとメールのやりとりをもとに、世話人の梨屋アリエが報告します。最新のYA作品や、みんなが知っているYA作品、YA層に読んで欲しい作品、その他、会員さんの情報としてYA作品以外の本の情報も、発信していきます。掲載順は、会員さんのお仕事のご都合に合わせて、決めていきます。更新は不定期になります。どうぞよろしくお願いします~。
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木村航さんにインタビュー
木村航さんは2003年にライトノベルの作家としてデビュー。でも、それ以前からゲームシナリオライターの茗荷屋甚六さんとして、長く、幅広くご活躍されているかたです。
(梨屋)いきなりですが、お作品の前に、木村さん自身のことを質問させてください。シナリオライターの仕事がきっかけで、ライトノベル作品の依頼が来て、作家デビューされたのですか?
(木村さん)おっしゃる通りです。小説の処女作『秘神大作戦 歌う虚』(2003/ファミ通文庫)は、私も制作に携わったTRPGのノベライズでした。こちらは非電源の、ルールをもとに人と人とのナラティブで進行するゲームで、クトゥルフっぽい邪神が跳梁するスチームパンク大正時代を舞台とする退魔アクションものです。 この仕事を機に小説の編集さんとのご縁が出来まして、ライトノベルのお仕事に繋がっていきました。 (梨屋)ペンネームをAmazonで検索したら出てきたのですが、『GOD OF DOG』の「木村航」というマンガ家さんは別人でしょうか?
(木村さん)同姓同名の方なんですよ! いや、びっくり。なので最近は、小説の仕事でも茗荷屋名義を使ったりします。 (梨屋)そうでしたか。確認して良かったです。 ゲームライターのときと筆名を使い分けるメリット・デメリット、使い分けのルールはありますか?
(木村)元々茗荷屋名義が先でして、当初は小説もこの名義で書くつもりでした。が、デビュー時に編集さんやゲーム会社の仲間から説得されまして。
「直木賞とか獲る時に困るでしょう!」
そんなもんかなーと思って変えたんですが、別に必要なかったですね!
茗荷屋名義ではレーティングの必要なお仕事などもやっておりますので、これをご覧のよい子たちは検索してもいいし、しなくてもいい。
(梨屋)で……では、インタビューの本題に。
『愛とカルシウム』の内容をひとことでお願いします!
(木村さん)くくりとしては「難病もの」になるでしょうか。体が石化する難病を患い、介助がなければ生きられない少女が、雀の雛を拾い、育て始める。彼女の葛藤と七転八倒を一人称視点で描きました。
(梨屋)主人公は18歳の女の子ですね。この本のおおよその対象年齢はどのくらいですか。
(木村さん)若い女性向けとのことで原稿依頼を受けました。
が、あまりこだわらず、かねてから温めていたテーマを思いきり追及させていただきました。
今あらためて紹介したい理由
(木村さん)すでに紙の本は絶版で、手に入りにくいため紹介してよいものか迷いました。電子版がいくつかのサイトで配信中なんですが、あれは貸し借りができませんしねえ。
しかし、ずっと書きたかったテーマであり、思い入れが深いこと。
また、令丈ヒロ子先生が本作を気に入って下さったのがご縁となり、当会に加わったこと。
以上の2点から、紹介させていただくことにした次第です。
(梨屋)令丈ヒロ子さんとは以前からお知り合いだったのですか? 令丈さんの青い鳥文庫の「若おかみは小学生!」シリーズのスタートが2003年ですね。
(木村さん) 確か『ぺとぺとさん』(2004-2005/ファミ通文庫)の時に注目してくださったのがご縁の始まりで、『愛とカルシウム』の時には熱のこもったファンレターをくださいました。ありがたいことです。今でもお守りに秘蔵しております。
(梨屋) 2009年に日本YA作家クラブを立ち上げたときに、令丈さんが『愛とカルシウム』がとても良かったと紹介してくださったのです。そのときに読ませていただきました。長く入院していると病室でカップラーメンを食べるのか……という驚きがあって、主人公が「カップラ」とかわいい響きで言うのが印象に残ってます。そういう描写が自然で、リアルでした。木村さんにも入院の経験があったのですね。
それが、執筆の動機につながったのでしょうか?
(木村さん) あたくし幼い頃から体が弱く、持病を抱えた友人も多かったんですね。様々なケースを知り、困難にも直面して、ガラじゃあないのに考えずにはいられなかった。どうやって生きていくか。なんのために生きるのか。生きることに意味はあるのか。
難しいテーマで、そう簡単に答えは出ません。が、物語にすれば、ひとつの決着が得られるんじゃあないか。そう思って書き始めました。
執筆当時はライトノベルとゲームシナリオのスケジュールが錯綜しており、非常に忙しかったんですが、執筆オファーをいただき企画も通った。この僥倖を逃せば次のチャンスはないと思って打ち込みました。
登場人物について
(木村さん)主人公の環が患う難病HDSは架空の病気ですが、慣れ親しんだSFやらハイ・ファンタジーやらのやり方で作り込みまして、読者から実在するのかと問い合わせも来たそうです。
この「石化の病」という設定と、雀の雛を拾うという状況設定をまず決めました。後は成りゆきです。結末は決めず、主人公と共に悩みながら書き進めました。
主人公は非常に口が悪く、いくつか出た書評でも「たいしたタマ」とか評される暴れん坊。それだけに蛮勇とでも言うか勢いがありまして、著者の思惑を超えて動き出し、物語を引っ張ってくれました。今もどこかで元気にやっているような気が致します。
(梨屋)出版後、かなり反響があったのではないでしょうか
(木村さん)ありがたいことにシリーズ化の依頼を受け、2作目の連載を始めた矢先に東日本大震災が発生しました。作中の舞台となる岩手県沿岸部も大きな被害を被り、主人公の運命も変わらざるを得なくなりました。3作目『しおかぜ荘の震災』(2013/双葉社)は、震災下の障害者施設を描いた本として、幾度か書評記事で紹介されております。
(梨屋)そうだったのですか……。
シナリオライターとしての仕事について
(梨屋)きっかけはありますか? 現在のオンラインが主流のゲームとはかなり違うのでは、と想像しますが……。
(木村さん)郵便を使ったRPG「PBM」の熱心なプレイヤーだったことがきっかけでした。
(梨屋)郵便!? それはいつ頃ですか? (「PBM」の説明は、ウィキぺディアを御覧ください)
(木村さん)トシがバレますが(笑)まあ若い頃です。先行きの見通しは何もなくて、金もなくて、ヒマとエネルギーだけはあり余っていた頃。
このゲームは、今ではとうてい考えられないほど不親切なシステムで、運営から与えられるわずかなヒントだけでは何が起こっているのかさえさっぱりわからない。なので、とにかくアクティブに動かなければならない。参加者同士で相互に連絡を取りあい、情報の断片を繋ぎ合わせ、図書館に通い古書をひもとき謎を解いて……という荒行が求められるんですね。おかげでずいぶん鍛えられましたし、仲間も出来ました。その中から業界入りした人も多く、お互い気心は知れているし腕前もわかってますから、お仕事にも繋がっております。
(梨屋)へえ~……。テレビゲームじゃないRPGをやったことないので、なんだか大変そうだな~と言う印象だけですみません。ここ数年は、クトゥルフ神話のRPGにハマって読書を始めたという大学生を毎年一人ぐらい見かけます。沼にハマってもそこで仕事が見つかれば、最高ですね。
(木村)クトゥルフはすっかり定番になりましたね。私も仕事でたびたび扱いましたが、いまだによくわかっていません。
私の場合は、今申し上げたように郵便ゲームがきっかけでしたが、これからの方々にはまた折々のメディアがあり、集う場があり、繋がるご縁もありましょう。そうして新しい何かが生まれてくる。それを創り出すのは、これをご覧の皆さんかもしれません。
木村航さんProfile
岩手県釜石市出身
愛知県名古屋市在住
作家/シナリオライター。
Twitterアカウント 木村航/茗荷屋甚六 @J_Myougaya
その他の近刊
『revisions リヴィジョンズ』全三巻(2018-2019/ハヤカワ文庫)
『PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System』上・下(2018-2019/マッグガーデンノベルス)※吉上亮氏との共著。
『ログ・ホライズン 外伝 新たなる冒険の大地』(2021/KADOKAWA)※池梟リョーマ氏との共著。
木村航さん ご協力ありがとうございました。
日本YA作家クラブでは年に二回、図書館や学校図書館、読書推進活動をしている団体様向けに、ニューズレターを発行しています。
ニューズレターについての情報は、公式サイトを御覧ください。下の図からリンクしています。
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