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インタビュー 児童文学作家の安田夏菜さん 『セカイを科学せよ!』に込めた元・蟲ガールの思いを受け取って

講談社から2021年10月に刊行された児童文学、『セカイを科学せよ!』について作者の安田夏菜さんにうかがいます。


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日本YA作家クラブ 会員インタビュー 第6弾は、会員さんへのアンケートとメールのやりとりをもとに、世話人の梨屋アリエが報告します。最新のYA作品や、みんなが知っているYA作品、YA層に読んで欲しい作品、その他、会員さんの情報としてYA作品以外の本の情報も、発信していきます。掲載順は、会員さんのお仕事のご都合に合わせて、決めていきます。更新は不定期になります。どうぞよろしくお願いします~。
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安田夏菜さんにインタビュー

  

 安田夏菜さんは第54回講談社児童文学新人賞佳作入選『あしたも、さんかく 毎日が落語日和』でデビュー。『むこう岸』で日本児童文学者協会賞、貧困ジャーナリズム大賞2019特別賞など受賞。児童文学作品の他に、第5回上方落語台本募集で入賞した創作落語が、天満天神繁昌亭にて口演されています。


『セカイを科学せよ!』の内容を、一言で言うと?

(安田さん)ルーツが日米の蟲好き女子・葉奈。ルーツが日露のミハイル。葉奈とミハイル、そして科学部の面々は、生物班の存続をかけ、学校に活動の成果を示すことに…!? ミックスルーツの中学生が繰り広げるバイオロジカル・コメディです。


(梨屋)バイオロジカル・コメディ!? 面白いジャンルですね。 主人公は中学生ですが、対象年齢はどのあたりを考えていますか?


(安田さん)小学校高学年~です。


執筆の動機、きっかけについて


(安田さん) 友人に海外ルーツの子の教育に力を入れている人がいまして、その友人から彼らの作文集を見せてもらう機会がありました。そしたら、小さいうちは「日本のお菓子最高!」「ガチャガチャも大好き」みたいな無邪気なものが多いんですが、YA世代に行くにしたがってどんどん自分のアイディンティティに悩む作文になっていく。ドストレートに「こんないじめを受けた」もあるのですが、「なーんか特別視されていて、疎外感がある」「日本人のつもりでいたけど、そう思ってもらえない」というのも多くありました。世間のイメージとして、日本には人種差別なんかないですよー、昔と違って多様化を受け入れつつありますしね、みたいなのがありますよね。けれどこの作文集を読むと、いやいや、それ違うよねと。

 もちろん地域環境によって差はあると思うのですが、建前と本音が違う日本社会のいやらしさみたいなものは、今もって健在なんじゃないかと感じたんです。それでいろいろ調べ始めると、「マイクロアグレッション」という言葉に行き当たりました。「明らかに差別には見えなくても、偏見に基づく発言や行動で、無自覚に相手を傷つけること」ですね。これをテーマに書いてみたい、と思ったのが、執筆の動機です。


(梨屋)なるほど。「マイクロ(小さな)アグレッション(攻撃性)」という言葉があるのですね。そのテーマからはじめて、作品に虫の飼育の話がでてくるという発想は、すごいですね……。はじめは意外なつながりでしたが、読んでいくごとに納得できる展開で。


(安田さん)こういうふうにテーマがはっきりしていて理屈から執筆に入ると陥りやすい罠があるんですよね。それは、「説教臭くなる」。

最初に書き上げた原稿は、プロットも何も作らずに、バーッと思いだけで書き上げたのですが、「これじゃあダメです」と。わたしはその編集者氏のはっきりモノを言ってくれるところがとても好きなんですが、こうも言われましたね。「読書感想文ねらいだったら、よそに持ってってくださいよ」って(笑)

そんなもん狙ってないやいと思いましたが、指摘についてはぐうの音も出ませんでした。たぶん、「さあ、この問題について考えてごらんなさい」みたいな、大人の上から臭がプンプンだったんだと思います。  全没にして自ら葬りさり、しばらく悶々としたあと、こういうものはちょっと変わった切り込み方をしたほうがいいかもと思い、「蟲」で行ってみるかと思いました。昔、わたしは蟲ガールで、ダンゴムシやらカエルやら、アリやらボウフラに至るまで、いろいろ飼育してたんですよね。そして今度はちゃんとプロット立てて企画として持って行って、やっと「面白そうじゃないですか」と言ってもらえました。それからあとは、わりとスムーズでしたね。そしてなぜだか、2022年第68回青少年読書感想文全国コンクールの中学校の部の課題図書になりました。なにがどうなるか、わからないものです。


(梨屋)課題図書、おめでとうございます。そうか! 作者が飼育系蟲ガールだったのですね。だからあんなに自然に、小さき虫への愛が語られていたのですね。

 でも安田さん、ボウフラも飼育していたのですか? 当時のご家族の反応は? 


(安田さん)ボウフラは飼育というより勝手に保護観察してたんです。庭にごく小さな池がありまして、そこの金魚が死に絶えた後、ボウフラがたくさん湧きました。その子たちがけなげに浮いたり沈んだりしているのが可愛くって、毎日座り込んで見てたんです。ところが母が怒り出し、「池に油をまく」と言い出しました。「なんで?」と聞いたら息をできなくして、全滅させるのだと。もう、泣いて抗議しましたね。あんまりわたしが泣くもので、母は根負けして勝手にしなさいということになりました。おかげでその後は思う存分彼らを愛でつつ、観察することができました。成虫に刺されてボコボコになりましたけど、油をまかれなくて本当によかったです。


登場人物について


(安田さん)コロナ禍の真っただ中で書いていたので、とにかく楽しく読んでもらいたかったんです。なので、つらい出来事の中で煩悶する子ばかりではなく、自分の機嫌は自分でとれる強い子を登場させたいと思いました。それが山口アビゲイル葉奈ちゃんです。で、この子がいろいろと筋道だった理屈を言うんですが、それはわたしの夢を反映させてます。昔子どもだった頃、親に反抗すると「屁理屈を言うな」「女の子がそんな可愛げのないことでは幸せになれない」と怒られまして。いつかどこかで思いっきり理屈を言いたいものだと願っていました。私の代わりに葉奈ちゃんが言ってくれました。ああ、すっきりしたー。


(梨屋)安田さんの思いをのせた葉奈ちゃんの言葉が、みんなに届くと嬉しいですね。

 この先、イベントなどのご予定はございますか?


(安田さん)10月11月と来年の2月に、関西と横浜で講演会をさせていただきます。全部で4回くらい。また追って、情報をお知らせできたらと思います。



出版社のサイト


近影



安田夏菜さんProfile


兵庫県出身、在住。

児童文学作家。

Twitter @kanakana623





執筆以外の最近の活動や関心ごとを一言おねがいします。


(安田さん)落語。花都向日葵という名前でときどき高座に上ります。もちろん、アマチュアです。

 落語はいいですよ。高齢者だけのものにするのはもったいない。悩めるYA世代にぜひとも勧めたいです。そんなにがんばらなくても許される世界、アホでも肯定してもらえる世界ですから。



最後に……


(梨屋)この夏休みに、『セカイを科学せよ!』で読書感想文を書いている小・中学生に、なにか一言おねがいします。


(安田さん)思ったことをそのまま素直に、自由に書いてくださればよいと思います。子どもって、けっこう大人に気を使って生きているので、賢い子ほど「こういう感想を欲してるよね」と忖度をしがち。私もそうでした。そうやって感想文を書くと、書くことも読書も面白くなくなりがちなので気をつけてください。「もっとこんなふうにすりゃ面白かったのに」みたいな感想とか、わたしはぜひ読ませてもらいたいです。



その他の近刊


2020年12月『おはなしSDGs 貧困をなくそう みんなはアイスをなめている』 (おはなしSDGs―貧困をなくそう)講談社



安田夏菜さん ご協力ありがとうございました。

レター

日本YA作家クラブでは年に二回、図書館や学校図書館、読書推進活動をしている団体様向けに、ニューズレターを発行しています。


ニューズレターについての情報は、公式サイトを御覧ください。下の図からリンクしています。



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